古典音楽の音楽形式

古典音楽の音楽形式

インド古典音楽は、「純粋音楽」である。このガート(ラーグ音楽の音楽形式、ジャンル)の目的は、音楽の概念、抽象的な音のアイディアである、「ラーグを表現すること」である。

音楽はそれそのものとしてここに存在し、言葉はそこに最終的に付け加えられるものだ。古典音楽のカテゴリーに入るガートは、ドゥルパド、ダマール、キヤール、タラーナー、タッパ、など。それぞれのガートは異なる特性があり、ラーグの美しさと個性を、それぞれの方法で、開花されてゆく。

 

ドゥルパド(Dhrupad)

ヴェーダ詠唱後、もっとも古いガートとして残っているのが、ドゥルパドである。13世紀までに、古典音楽は、この形式を成立させた。宮廷や寺院で、繁栄の時をむかえ、その人気は16~17世紀まで続いた。キヤール(khyaal)の台頭により、その人気は衰退してゆき、今日、ドゥルパドは、コンサートなどで聴く機会が非常に少なくなってきている。

ドゥルパドのソングテキストは、スターイ(sthaayi)、アンタラー(antaraa)、サンチャーリ(sanchaari)、アーボーグ(aabhog)の、4つのパートにわかれている。最近では、スターイ、アンタラーのパートのみが歌われる傾向がある。歌われる歌詞の内容は、信仰的なものや、自然などについてのものが多い。バンディッシュの歌われる前にまず、ラーグの詳細な描写がされる、アーラープフレーズの展開が、非常に大きな割合で歌われる。アーラープは、ゆっくり、ちゅうくらい、それから速く、と、3つの流れを持つ。ノム、トム、といったシラブル(音節)を、パカーワジ(ドゥルパドの打楽器)が入る前の、無伴奏のアーラープのパートでは使い、リズミカルなパターンを作り出す。ミーンド、まっすぐ淀みないロングトーン、ガマクといったヴォーカルテクニックを採用する。ムルキー・ハルカットといった、装飾音は使わない。タールから独立したこのセクションでは、サルガムやターンはほとんど使われない。

バンディッシュのパートに移ると、パカーワジ奏者は、演奏に参加し、ヴォーカリストの演奏に応じ、即興演奏を行う。したがって、バンディッシュは、ボル・フレーズ(ボル・ウパジ)、歌の言葉を用いる形で展開されていく。

言葉とパカーワジの伴奏とが絡み合う、リズミカルな展開は、このガートに、男性的で堂々とした、重厚な品質を与える。

ドルパドで演奏されるのはシリアスで重厚なラーグが多く、12拍のチョウタールというタールをよく使用する。演奏時間はアーティストと、オーディエンスの反応により、その時々で異なり、15分くらいから1時間、それ以上に続いていくことも多い。

 

ガート:ドゥルパド

ラーグ:カリヤーン

タール:スールタール

 

歌詞

スターイ

 

mana sumira shree ganesha

マナ スミラ シュリー ガネーシャ

mangala naama

マンガラ ナーマ

 

アンタラー

 

vidyaa guna data

ヴィッディヤー グナ ダタ

hota mangala kaama

ホタ マンガラ カーマ

 

日本語:スターイ:ああ心よ ロードガネーシャ様を思う 長いこと その吉兆の名を想っています

アンタラー:智慧と徳を与えてくださる すべての行いを実り多きものにしてくださる方 

 

ドゥルパドと形式はよく似ている。

しかし、歌の内容は、ホーリー祭(訳注:ヒンドゥー教の、春の訪れを祝う祭りで、毎年3月に行われる)、クリシュナ神などについてのものだ。14拍のダマールというタールで演奏される。ドゥルパドとダマールは猛々しく、力強い表現を多く使うので、男性アーティストに演奏されるのが適したガートと言えるだろう。

 

 

ガート:ダマール(ホーリー)

ラーグ:ブープ

タール:ダマール

歌詞

 

スターイ

hori khelata saga gopiyana

ホーリー ケーラタ サガ ゴピヤーナ

kaanhaa maga rokata barajoree karata

カーンハー マガ ロカタ バラジョリー カラタ

 

アンタラー

 

abeera gulaala bhara bhara maarata

アビーラ グラーラ バーラ バーラ マーラタ

ekhahoon na maanata dekhe saba gvaalana

エカフーン ナ マーナタ デケ サバ グワーラナ

 

 

 

日本語:スターイ:ゴーピー(訳注:牛飼い女)を通せんぼ クリシュナ様は娘たちにホーリーの色水掛けっこをさせたがる

アンタラー:牛飼いどもが夢中になって見物するなか 嫌がる娘たちにおかまいなしに 赤やピンクの粉を振りまく  

 

 

 

 

キヤール

キヤールは、現在、最もポピュラーな古典音楽形式だ。キヤールという言葉は、「思考」という意味をもつ。キヤールスタイルは、18世紀から、広く演奏されるようになった。キヤールもシリアスなムードを持つガートではあるが、ドゥルパドのような重厚な制約はない。抽象的で、瞑想的な性質により、言葉による制約から解放され、より、ラーグの音楽的表現-主に音とリズム-に主題をおきやすい。ソングテキストの言葉は、アーティキュレーションの多様性をもたらし、リズムパターンを作り出し、感情的色彩を与え、歌い手が思い描く、全体的な美的世界観を高めるために使われる。

キヤール演奏はまず、いくつかの導入的なフレーズ、アーラープからはじまり、その次に、歌い手によって選ばれた、バンディッシュの全体、または一部が歌われる。音から音へ、フレーズからフレーズへと進んでいくにつれ、ラーガは展開され、解き明かされていく。キヤールにおけるアーラープ(またはボル・アーラープ)では、ロングノート、ミーンド、カン、カトゥカー、アーンドーラン、ガマクといったヴォーカルテクニック(訳注:ヴォーカルテクニックについてのチャプターはこちら→表現し連結する音)が使用される。ムルキーのような、軽やかなイメージをもたらす装飾テクニックはここでは使われない。アーラープの後、ボル・ウパジ、サルガムなどといった表現が、その歌い手の好みによって選ばれて歌われる。そして最後にターン(またはボル・ターン)を演奏する。

これら、ヴォーカルテクニックの使われ方は、演奏されるラーグ、またはアーティストの歌唱スタイル、気分、および観客の反応などによって変化する。

 

ガート:ヴィランビット/ バラー・キヤール

ラーグ:マール ビハーグ

タール:ヴィランビット エクタール

 

 

歌詞

スターイ

 

kala naahein aaye saanvare

カラ ナーヒン アーエ サーンワレ

tohe dekhana jiyaa lalachaae

トヘ デカーナ ジヤー ララチャーエ

 

アンタラー

 

gharee pala china mohe

ガーレー パラ チナ モヘ

juga se beetata hai saanvare 

ジュガ セ ビータタ ヘイ サーンワレ

tohe dekhana jiyaa lalachaae

トヘ デカーナ ジヤー ララチャーエ

 

 

日本語:スターイ:愛するひとよ 不安でたまらない わたしの心は あなたに会いたい

アンタラー:一瞬一瞬が永遠に続くかのようだわ ああ愛するひとよ あなたに会いたくて 心が痛むのです

 

 

 

 

ガート:ドゥルット/ チョターキヤール

ラーグ:マール ビハーグ

タール:ドゥルット ティーンタール

 

歌詞

スターイ

 

jaagoon main saaree rainaa balamaa

ジャーグーン メイン サーリー レイナー バラマー

rasiyaa mana laage naa moraa 

ラシヤー マナ ラーゲ ナー モラー

 

 

アンタラー

 

bahut ramaayo sautana gharavaa

バフット ラマーヨ ソウタナ ガラワー

piyaa aa garavaa lagaa

ピヤー アー ガラワー ラガー

日本語訳:スターイ:一晩中眠れないの ああ愛するひとよ わたしの心はとても落ち着かないの ああ愛するひとよ

アンタラー:別の人のところで楽しんでるのでしょう? はやく戻ってわたしを抱きしめて

 

 

 

キヤールには2つのタイプがある。バラー(大きい、の意)・キヤール、またはヴィランビット・キヤール、それから、チョター(小さい、の意)・キヤール、またはドゥルット・キヤールである。バラー・キヤールはゆっくりのテンポで展開され、ゆったりと広大な空間で、ラーグの詳細な描写をすることができる。対照的にチョター・キヤールは速いテンポで、その展開も速くなる。バラー・キヤールにとって、アーラープパートは非常に大きな位置を占め、チョター・キヤールの中ではターンが非常に効果的な役割を果たす。ボル・フレーズやサルガム・フレーズの採用は、アーティストの采配に依る。通常、バラー・キヤールとチョター・キヤールでは、同じラーグを連続して演奏し、1つの作品となる。キヤールにはもう1つ、中くらいのテンポで演奏されるものがあり、それはマッディヤラヤ・キヤールと呼ばれ、ヴィランビットの後に歌われるか、時間的な制約、順序的なことなど、さまざまな要因に応じ、ヴィランビットの代わりに演奏されることもある。キヤールでは、ほとんどのラーグが演奏される機会をもち、ティーンタール(16拍)、エクタール(12拍)、ジャプタール(10拍)、ルーパクタール(7拍)などが、おもに伴奏で使われる。バラー・キヤール、チョター・キヤール合わせて、15分程度から45分、またはそれ以上、演奏される。


all audio guidance by Chetna Banawat

◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。