2. ヒンドゥスターニー音楽(北インド古典音楽)とカルナータカ音楽(南インド古典音楽)

 

インド古典音楽は、最古のヴェーダ詠唱から、現在の複雑な音楽の形態になるまでに、調子のテクスチャー、音楽的素材、技法、様式、動き、表現などの点で進化し続けている。インド古典音楽は、主に口頭伝承という方法で受け継がれてきた伝統音楽であるが、必要とあれば、その音楽の主流の中に、新しいトレンドを取り入れる、といったこともなされてきた。

イスラム教徒やイギリス人といった、外国の支配者の侵入、20世紀の科学技術の発展により、インド古典音楽の構造と内容は大きく変わっていった。しかし、新しいものを取り入れた、とはいえ、それはインド古典音楽の基本的考えと調和しているトレンドのみが取り入れられた、ということは覚えておく必要がある。

インド古典音楽は、様々な歴史的過渡期において、その音楽的性質を保持してきただけでなく、すべての段階において、その音楽性は高められてきた。

伝統的なものとして歌われてきた音楽は、何世紀にもわたり進化してきた。前世代に演奏されていた音楽は、その時代による影響、また、その世代の芸術的ニーズに対応した、しかるべき調整がされてきたということは確かだ。変化する時代、そしてその時代のニーズに対応することが芸術にとって必要であるのならば、芸術様式の変化というのは、必然的に不可欠である。したがって音楽は、時代の流れの中で変化していかざるを得ないものなのだ。

クリーンでオープンな気持ちで、ものごとに取り組んでゆくことは非常に困難だ。

文化育成、教育、訓練、発露、経験、協力体制、能力、それから意欲の限界は、それらのすべてが、良いか悪いか、正しいか否かを決定する際にはっきりと影響する。

インド音楽を理解するやり方と同じやり方で、どうやって中国の音楽を理解することができるか?中国の音楽は、中国の音楽として聞かれなくてはいけない。西洋人にとって最近まで、インド音楽は、単に民族音楽としてくくられてきた。このような扱い方が、ほかのどの音楽のジャンルにおいてもされている。そして、このようなアングルからヒンドゥスターニー音楽とカルナータカ音楽のリスナーを見てみると、彼らはお互いの音楽を公正な感覚で聴いてはいないようだ。もし、一方の音楽について知りたいならば、自分の知っている音楽のスタイル、知識、経験が、他方の音楽を理解し、楽しむのに非常に役に立つであろうに、いったい現在、どのくらいの人たちが、別の音楽スタイルを楽しみたいという希望や、情熱を抱いているだろうか?しかし、驚くべきことに、彼ら、「玄人」と呼ばれる人たちは、それが西洋音楽であれば、その音楽の基本を知らなくても、理解しているかのように振る舞い、聴きにいくのだ。このように、ヒンドゥスターニー音楽、カルナータカ音楽、その双方に対する無関心が、両方のスタイルに損害を与えていると言えるだろう。彼らリスナーは、他方の音楽スタイルから得られる喜びを、自ら放棄していることに気づいていないのだ。

われわれはみな、何かしらのスタイルの音楽を嗜好する。しかし、あまり知識のない音楽に直面したとき、即座にそれを、つまらない、よくない音楽だと盲目的にジャッジしてしまう。そのような偏向的判断は、非常に美しい “かも” しれない、「未知の音楽」にとっては非常に不公平な判断である。

われわれは、われわれの心が、ある思い込みの状態にあるがゆえに、ある種の音楽しか楽しむことができないのだ、ということに気づいていない。客観的に、あらゆる種類の音楽を聴き、理解し、楽しむためには、オープンな感覚、知りたいという希望的な感情、さらに、充分な時間が必要である。そうすれば、その音楽の歴史的背景、音楽理論、技術用語などを知らなくても、楽しむことは可能なのだ。

よいアーティストになるためには、長い年月の訓練、練習が必要である。しかし、本当の意味でのよいリスナーになるにはそれ以上に長い年月を要する。

リスナーの方々が、音楽制作の理論的、技術的側面を理解することは、その音楽をさらによく理解し、楽しむことにもつながる。彼らの音楽に対する積極的な参加姿勢が、そこで創造される音楽に形を与える重要な役割もはたしているのだ。

この二つのエレメント-「音」と「時間」は、世界中、どの音楽の中にも存在する。しかし、すべての文化の中に、独自の音楽があり、独自のコンセプト、音楽素材、技法がある。

インド音楽には、二つの異なるスタイルがあるーヒンドゥスターニー音楽と、カルナータカ音楽だ。双方のスタイルには、共有する基本がある。これらに共通する概念、「ラーグ」と「タール」があり、半既成曲(ヒンドゥスターニー音楽(以下「ヒ」と表記):バンディッシュ / カルナータカ音楽(以下「カ」と表記):サーヒッティヤ)、ゆっくりのテンポのフレーズ(ヒ: アーラープ / カ:アーラーパナー)、速いテンポのフレーズ(ヒ:ターン / カ:ターナム)、言葉を使うフレーズ(ヒ:ボル・フレーズ / カ:サーヒッティヤ(サンガティ、ニラヴァル)、略式音名を使ったフレーズ(ヒ:サルガム・フレーズ / カ:チッタイ・スヴァラム、カルパナ・スヴァラム)などといった、共通の音楽素材を使用する。しかし、それぞれの音楽スタイルの「ラーグ」と「タール」というコンセプトの表現方法、アプローチは異なり、上記の共通して使用される音楽素材であっても、その扱いかた、アレンジメント、表現方法、プレゼンテーションは異なるのだ。そして結果として立ち現れるその建造物は、当然異なるものとなる。

実演レヴェルにおいては、それぞれのラーグスケールの借用や、各スタイルへの適応は、ずっと以前から行われている。しかし非常に少数のアーティストだけが、一方の様式のニュアンスを自分の音楽スタイルに同化しようと試みてきた。異なる音楽システムに対する、ある心の思い込み状態という問題は、演奏者、聴衆の両方に見受けられる。

以下、ヒンドゥスターニー音楽とカルナータカ音楽の大きく異なる点をいくつか挙げてみた。

 

1.カルナータカ音楽が、速いテンポのガマカを多用する。

ヒンドゥスターニー音楽では、おもにゆっくりと音を移行するミーンドや、長く同じ音を持

続させるという技法をとる。

 

2.カルナータカ音楽では、サーヒッティヤ(歌詞)重視である。速い装飾音、ガマカを使

用するということと、サーヒッティヤに与えられた重要性のため、その構成と表現のテンポ

は速くなる傾向にある。

ヒンドゥスターニー音楽は、ラーグ表現重視。長く、ゆっくりと滑らかな動き、一つの音を

安定して持続させるようなヒンドゥスターニー音楽は、ラーグの展開をゆっくりと進行させる

ものになってゆく。そのようにゆっくりと表現される進行を美しく、意味のあるものにする

ような、非常にゆっくりとしたテンポの曲も採用される。

 

3.カルナータカ音楽が、サーヒッティヤ重視であるため、サーヒッティヤを厳守

することが要求される。その音楽の輪郭、プレゼンテーション・モードには、パッラヴィ、

アヌパッラヴィ、チャラナムといったセクションに分けられた、ラーガを発展させるための事

前定義されたセクションも含まれる。

キヤール、タラーナーといった古典音楽ガートにおいてラーグが重要視されるヒンドゥスタ

ニー音楽では、ラーグの美しさ、その意味性の表現といったことがただ一つの目的となる。

そのため、タールとテンポが伴い、半分作曲された曲の部分は、ラーグ表現のための音楽素

材の一つとして扱われる。曲中の言葉は、アーティキュレーションのヴァラエティを広げ、リ

ズムに美しくはまるフレーズを生み出し、ときにフレーズに感情的色彩を与えるために使用さ

れる。スターイー、アンタラーといった、既成曲のセクションには、歌われる歌詞や、ラー

グを発展させるためのモードなどの厳守しなければならないものはない。

 

4.カルナータカ音楽では、ターラは手拍子と指を使ったカウント方法により提供される。

ヒンドゥスターニー音楽では、打楽器(タブラー、パカーワジ)上でタールの拍を演奏する

ことによってサウンドパターンが作り出される。その繰り返す周期によってタールは提供され

る。拍ごとに生成される音には、特定の音節がある。そういった音節のグループが、タールの

中でテーカーを作り出す。テーカーは、ラーグ奏者を、即興的に表現されるタールの進行を理

解するのに役立つ。

 

5.カルナータカ音楽の場合、器楽は声楽を模倣したものである。言ってみれば、言葉のない声

楽のようなものである。

ヒンドゥスターニーシステムでは、声楽と器楽は、どちらも独立した流れの中に分かれている

はっきりと異なった、それぞれの音楽素材、プレゼンテーション・モードがある。

 

6.カルナータカ音楽において、次の4つの音、レ、ガ、ダ、ニー、それぞれ3つの微妙に異なる音を有している。ひとつのラーガの中において、同じ音の、二つの微妙に異なる音が使われる場合、それぞれに別の音名が使われる。したがって、カルナータカ音楽におけるトータルの音の数は16個になる。

ヒンドゥスターニー音楽においては次の5つの音、レ、ガ。マ、ダ、ニー、それぞれ2つの微妙に異なる音を有している。ひとつのラーグにおいて、同じ音の、二つの微妙に異なる音が使われる場合、それぞれに別の音名が使われる。したがって、ヒンドゥスターニー音楽におけるトータルの音の数は、12個になる。

どちらかのシステムに精通していれば、比較形式で提示することによって他方のシステムをよく理解することができるだろう。やはりしかしながら、それぞれの音楽システムの実際の演奏を、意識的に聴くことこそがもっとも重要である。

 

<音名>

 

 シュッダ・サプタック

カルナータカ音楽において、シュッダ・スワルは、シュッダ・サプタックとして認識されており、「カナカーンギ」と呼ぶ。

カルナータカ音楽(カナカーンギ): S  R  G  M  P  D  N  S*

(これに対応する

ヒンドゥスターニー音楽の音)   :     S  R  R  M  P  D  D  S*

 

<タール>

<カルナータカ音楽のターラ>

 

<7つの基本ターラ(ラグー4のチャトゥシュラジャーティ)>

 

 

<ターラのジャーティとガティ(ラグー)>

ティスラ            3

チャトゥシュラ         4

カンダ             5

ミシュラ            7

サンケールナ          9

ターラの総数

7ターラ×5ジャーティ=35ターラ

35ターラ×5ガティ=175ターラ

 

<メロディー素材>

<フォーム(ドゥルパド-ダマール × ラーガム-パッラヴィ)>

 

 

<フォーム(キヤール × クリティ)>

 

 

 

<フォーム(タラーナー × ティラーナー)>

 

<フォーム(トゥムリー-ダードラー × パダム-ジャーヴァリ)>

<伴奏楽器>

<演奏の流れ> 

 

<Raags ラーグ>

1.同じ名前で同じスケールのラーグ

Raag Aabhogi ラーグ・アーボーギ(北)  :  S   R   G   M   D   S*

      Raga Aabhogi ラーガ・アーボーギ(南)  :  S   R   G   M   D   S*

2.同じスケールだが、別の名前のラーグ

Raag Maalkauns ラーグ・マールコウンス(北):   S  G  M  D  N  S*

      Raga Hindolam   ラーガ・ヒンドーラム(南)   :   S  G  M  D  N  S*

3.同じ名前だが、別のスケールのラーグ

Raag Todi ラーグ・トーディ(北):   S  R  G  M’  D  N  S*

      Raga Todi ラーガ・トーディ(南):   S  R  G  M  P  D  N  S*

     (カルナータカ音楽のトーディは、ヒンドゥスターニー音楽のバイラヴィ・スケールにあたる)

 

<Taals タール>

1.同じ拍数で違う名称のタール

 

2.同じ名前だが、拍数の違うタール

◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です