7. キヤールにおけるタールの役割

 

 

ラーグ(音)とタール(リズム)は、インド音楽の非常にユニークな概念で、それぞれが固有の構造を持っており、それぞれが、それぞれの補助なしでも音楽的に成立しうる。2つが同時に演奏される場合、ラーグとタールは役割に応じて表になったり裏になったりという風に働いたり、それぞれ補完的役回りをすることもある。

インドの打楽器、タブラーやパカーワジを鑑賞する、ということは、「タール」演奏を鑑賞するということだ。ここではタールが主題となり、メロディーはそこに従属する、という役割を果たすことになる。メロディーは、タール演奏のためのシンプルな反復演奏を保ち、タール表現進行のスタート地点を提示し、またリズム表現にメロディー的楽しさを加味するのだ。

同様に、ラーグを聴く、ということは、そのラーグの個性、美しさや雰囲気、その意味を体験することだ。キヤールにおいて、ラーグが主に演奏のテーマとなる以上、タールはテーカーを繰り返し、安定したリズムパターンの基盤を提供することが求められる。

タールの役割として

(1)ラーグとガートのメロディー概略のサポート

(2)メロディック、またはリズミックなヴァリエーションを作り出すことにより、ラーグ、ガートの美しさを際立たせる

(3)ラーグ、ガートの展開時におけるリズムサイクルのスタート地点、または休符点の提示

(4)ラーグで使われる音の動きを誘導

(5)ラーグの即興展開のサポート

と言うものが挙げられる。

キヤールとは、音楽的言語を用いて、それぞれのラーグのパーソナリティとムードを表現することが目的である。そこにバンディッシュとともに用いられるタールは、バンディッシュの従属的立場をとっており、展開されるリズムパターンはシンプルに繰り返される。

ラーグの微細さは、音から音へゆっくりと吟味しながら展開される、アーラープ部分でもっとも多く表現され、リズムの制約から解放され、自由に繰り出されるフレーズは、独自の構造、動きを持っている。したがって、のちに合奏されるタールは比較的ゆっくりなテンポで始まり、タール自身の構造、テンポによるラーグ表現の阻害を回避している。このように合奏されるラーグとタール、ラーグから生み出されるフレーズは、あたかもタールのリズム構造とは付かず離れず浮かんでいるかのような様相だが、タールの開始点である「サム」に近づくと、双方は互いを認識し合うような振る舞いをし、サムに着地する。

タールのテンポ、構造にしたがって、あらゆるフレーズを生み出すことを試みる際、人はそのためのテクニックに重点を置いてしまうきらいがあり、その創造的活動が、機械的活動に変わってしまう可能性がある。演奏が展開されていくプロセス上、その表現欲求に応じて強調される部分がメロディからリズムへ、またその逆へとスライドし続けるが、一般的にアーラープ展開の間は、タールは常にバックグラウンドにとどまる。

ボル・フレーズ、サルガム、ターン展開時は、テンポが増していくのに伴い、旋律構造と、リズム構造の関係はより明確に結びつく。

1つのラーグにおいて、異なるタール、異なるテンポのバンディッシュを次々と演奏する通常の方法は、あらゆる種類の即興的フレーズの動きを容易にさせるために、そのような異なるリズム構造、異なるテンポが必要であるということを示している。時にはバンディッシュ1つだけの演奏もあるが、そういった場合も、繰り出す即興フレーズにふさわしい形にテンポは徐々に上がっていく。

キヤールのガラーナー(流派)によって発声法には違いが見られるのだが、音楽素材の選別やその扱い方、およびタールと、その演奏法もガラーナーの違いによって異なる。それは言い換えると、その違いは主に、即興演奏時、バンディッシュに付随するタールから行使される自由度の量によるものなのだと言うこともできるだろう。

 

◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です