インド音楽について書かれたもののほとんどは、音楽実践者ではなく、理論家によって、理論的側面から書かれたものがほとんどだ。ミュージックパフォーマンスについて違った視点で捉え、記した女性音楽家は、その中でもまた珍しい。
本著「Enlightening the Listener」の著者、プラバー・アトレは、リベラルかつ総体的アプローチを試みながら、現代北インド古典声楽演奏について、一般聴衆のために研究を成した著名声楽家だ。
批判的かつ客観的に、伝統から由来する時代の変化による新たな文脈の追求を、女史は本著で試みている。
彼女のアカデミックバックグラウンド、分析力、ロジカルなアプローチとコミュニケーション能力が、本著を特別なカテゴリーに位置づけるもの足らしめている。
本著は音楽制作機関なども含んだミュージックパフォーマンスのさまざまな側面にとって価値あるものになるだろう。演奏家、作曲家、教師、思想家としてのドクター・アトレの多様な経験が、本著の信ぴょう性を裏付けている。一般聴衆の視点に立ち、女史は音楽制作の創造的なプロセスを、芸術的アプローチにより展開し、読者をより深い理解へと丁寧に導いて行くであろう。
また、付録の実例音声ファイルを聞くことにより、読者は音楽のマテリアルやその型を理解し、関連するテクニックを用いるアイデアを得るのに役立つであろう。
パドマシュリー、パドマブーシャン、タゴールアカデミーフェロー、カリダースサマン、そしてサンギートナタクアカデミー受賞者であるドクター・プラバー・アトレは、インド古典音楽分野において非常に著名な人物だ。オールインディアレディオ(インド国営ラジオ放送局)のアシスタントプロデューサー、ムンバイーSNDT女子大学音楽学部大学院長、およびプロフェッサー、レコーディング会社「スワラシュリー」のディレクター、プロデューサーといった経験が、彼女の多様な思考を育てる一助となっている。
ドクター・アトレは、類い稀なスキルと洞察力を持っており、北インド古典音楽と、ライトクラシカル音楽、両方のイディオムで、彼女を位置づけるべく、絶え間ない革新と、創造的な努力を続けてきた。
キラーナ・ガラーナー(流派)のシニアアーティストであるドクター・アトレは、パンディット・スレーシュバブ・マネ、パンディッタ・ヒラバイ・バロデカーのもと音楽修練を積み、北インド古典音楽界の著名なマエストロ、ウスタード・アミール・カーン、ウスタード・バデ・グラム・アリー・カーンの演奏スタイルに影響を受けた。
45年以上もの間、グル・シーシャ・パランパラー(伝統的な師弟関係による口承指導)による音楽指導を行い、インド国外においても、指導を行ってきた。また、ドクター・プラバー・アトレ・ファウンデーションを立ち上げ、インド文化とパフォーミングアーツの普及にも努めている。また、優秀な生徒を育てることで、学術機関と、伝統的師弟スタイルのギャップを埋める架け橋となる、「スワラマイー・グルクル(音楽施設)」を設立。
また北インド古典音楽における、現代音楽パフォーマンスについての数々の学術書を執筆している。女史の研究のテーマであった、『サルガム(Sargam)』、インドの音名を冠した『スワラマイー』『ススワラーリー』『スワラーンジャニー』『スワランギー』『アンタスワラ』、『Along the Path of Music』は、演奏家、作詞家、学者、執筆家、そしてグル、教師という様々な側面を持つ女史の多様な才能を証明している。
これらの著書は、一般聴衆者、および専門家にいたるまで幅広い層に受け入れられており、インド国内のいくつかの言語にすでに翻訳されている。
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。