序文

序文

わたしは声楽家である。幼少のころから歌をまなび、そこに疑問を抱く余裕もないほどの強烈な導きにより、インドの伝統的師弟スタイルにのっとった、音楽修行を受けた。

ひとりの独立した声楽家へと育ててくれた師を持ったことは非常に幸運であり、自身の音楽教養や学術的興味が、音楽というものを開かれた視点で考察するのに、大きな助けにもなっている。

オール・インディア・レディオ(インド国営ラジオ放送局)のアシスタント音楽プロデューサー、ムンバイーSNDT女子大学での教授職、大学院音楽研究部門所長、レコーディング会社、「Swarashree」のプロデユーサー、ディレクター業のおかげで、音楽業界の内側外側の両面を知ることもできた。

このような社会活動により、音楽や、音楽業界のさまざまな側面について、幅広い視点を得ることができたと思っている。

この経験はわたしの音楽に対する理解を豊かにし、思考を刺激しただけではなく、自身の音楽をクリエイトするためのテクニック、表現力を身につけるための洞察力も与えてくれたと思っている。

また、現代のパフォーマンスの現場で、聴衆とのコミュニケーションの必要性が、音楽の分野で起こっているさまざまな事柄について、クリティカルに、客観的に考察できるようにしてたらしめた。

この本に記されている記事は、現代北インド古典音楽の演奏、関連する活動、および、直接的、間接的に音楽制作に携わる人々のことを中心に書かれている。

それぞれの章は、それ自体で完結しており、独立した形になっている。そのため、繰り返しの表現、内容がいくつか見られると思う。それは、それぞれの章、単独で完結させた形として読者に読んでいただくための意図的な手段である。この繰り返しがあることで、読者はよりその章の内容を理解することができるだろう。

各章は、主題の一貫性、連続性を維持すべく整理した。

本著の初版は2000年で、これまでの15年間の間に、インド古典音楽界の中にも大きな変化がもたらされた。この大きな変化が、「Enlighting the Listener」の再販をわたしに動機付けた。

◆音楽用語

現代インド音楽で使われている音楽用語をアルファベット表記にした場合、その実際の発音にそくした表記を心がけた。読者の混乱を避けるため、発音区別記号は省略した。

◆音名記法

バートカンデ記載法にのっとった記載法を採用。

S, R, G, M, P, D, N、それぞれの発音は、Saa Re, Ga, Ma, Pa, Dha, Ni (Nee) となる。

(訳注:デジタルコンテンツ上で反映されないものが多いため、ここでは記載不可能なものはテキストで説明を入れておく)

◆音名

シュッダ(幹音)      − S, R, G, M, P, D, N

コーマル(フラット) −    R, G, D, N(音名の下部にアンダーバー)

ティーヴラ(シャープ)− M’(音名の上部に縦棒)

マンドラ・サプタック(下のオクターヴ)− S., R., G., M., P., D., N.(音名の下部にドット記載)

マッディヤ・サプタック(中間オクターヴ) − S, R, G, M, P, D, N

タール・サプタック(上のオクターヴ) − S*, R*, G*, M*, P*, D*, N* (音名の上部にドット記載)

◆タール(ビート)の記号

第一拍  サム − X と表記

空拍   カーリー − 0と表記

拍子   ターリー − 1、2、3と、番号で表記

拍子のひとくくりを示す記号 − | _ _ _ _ |

一拍の中にいくつもの音が入る場合、下カッコで表記 SRGM

本著に添付してあるオーディオCDには、本書の最初のチャプター、ミュージックメイキングの補助となる音声が収録されている。

ドクター・プラバー・アトレ

2016年 4月8日 ムンバイーにて


                                 
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。

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