キヤールの流派(ガラーナー)
キヤールにおける、様々な演奏スタイルに分けられた流派を、ガラーナー(gharaanaa)と呼ぶ。インドでは、ほとんどの伝統音楽は口承で継承されてゆく。師と弟子の音楽的つながりは、家族関係に似たような形を生み出していった。サンギータ・ラトゥナーカラ(訳注:Sangeeta Ratnaakara13世紀にサンスクリット語で書かれた音楽理論書)の中では、「サンプラダーヤ」(訳注:sampradaaya、「 学派」の意味)という言葉で書かれており、ドゥルパド隆盛の時代には、バーニーという名称で、演奏のスタイルを区別した。19世紀中頃になると、ガラーナーという流派わけの呼び名が、古典音楽ガート、キヤールの台頭により出現した。
ガラーナーとは、「家族」という意味を持つ言葉だ。音楽の中で語られる場合、ガラーナーとは、特定の流派のこと、またはその音楽スタイルのことを指す。キヤールのガラーナーは、(a)旋律やリズムにどのようにアプローチをし、アクセントをつけるか (b)発声の仕方 (c) 感情表現 (d)アーラープ、ターン、サルガム、ボル・フレーズの使い方 (e) ソングテキストの構造や、表現法(f) 装飾表現の使い方 (g) テンポなど、これらの違いにより、そのガラーナーのスタイルは識別される
しかし、ガラーナーは、それだけで明確なスタイルの違いを表すことはできない。同じ流派の中にも違いがあり、また、さまざまな流派に重複されるスタイルもある。
同化と散逸を繰り返してきたことにより、ガラーナーのスタイルの変化と多様性が生まれてきたのだが、ラジオ、テレビ、CD、インターネット、書籍などといったマスメディアの影響で、グル(師匠)による、口承伝承の重要さが、急速に廃れていっている。それから、別のさまざまな種類の音楽との出会いもまた、個々のスタイルに影響を与えていった。
現在多く見られるキヤール声楽のガラーナーは、グワリオール、アグラー、ジャイプール、キラーナ、パティヤラなどである。
1. グワリオール ガラーナー:すべての流派の素地となったガラーナー。ドゥルパドに似た剛性、重厚さが特徴的
2. アグラー ガラーナー:リズミックで、堅牢な表現が特徴。
3. ジャイプール ガラーナー:旋律とリズムの複雑な構造が特徴。
4. キラーナ ガラーナー:ラヤ(テンポ)を尊重しつつ、フレーズは軽やかに、旋律、イントネーション、感情表現に重きをおいた表現。控えめで、柔らかいプレゼンテーションを好む。
5. パティヤラ ガラーナー:複雑な装飾が特徴。旋律、リズム、ともに、ゆったりと大らかなのが特徴。
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。