キヤールのガート

キヤールのガート

 

タラーナー

キヤール演奏の一つの形式であるタラーナーについて。

一説によると、タラーナーはもともと、神と信奉者の間の愛し、愛される関係を描いたペルシャの詩から由来していると言われている。ペルシャ語を理解しなかった音楽家たちは、これらの言葉のかわりに、音色やリズミカルな効果を与えるような、音節を使っての表現を試みた。

また別の説では、タラーナーは、リズムと音のパターンのみによる、音節と意味を持たない言葉の配置であり、そのような文学的な意味をもたない、とも言われている。それゆえ、タラーナーで歌われる意味をもたないシラブル、音節表現は、声楽の「純粋な」音楽要素となり、音楽の抽象的クオリティを向上させることができる。

このガートには、2つのヴァラエティがある。1つ目のタラーナーは、その演奏法はほとんどキヤールと同じ。2つ目は、テンポが終わりに向かいどんどん上がってゆき、様々なリズミカルなパターンを織りなす、いくつかの音節と言葉が繰り返される。それは、シタールなど器楽で演奏される、ジャーラーの演奏法に似ている。ヴィランビット、スローテンポのタラーナーは、滅多に聞くことはない。タラーナーの演奏にかかる尺は、タイプにより、5分から15分、またはそれ以上となる。タラーナーの演奏では、どのラーグ、タールでも、採用される。

 

 

 

 

 

ガート:タラーナー(チョターキヤール)

ラーグ:チャンパカリ

タール:ドゥルットエクタール

 

歌詞

スターイ

 

dir dir tadeem tana derenaa 

ディル ディル タディーム タナ デレナー

tadare daanee tana tana derenaa ||

タダレ ダーニー タナ タナ デレナー

 

 

アンタラー

 

tadre deem tom tom tadaanee

タドゥレ ディーム トム トム タダーニー

ma, saa ma, re nee saa, ma, ga re saa, ga, ma, pa,

マ、サーマ、レニーサー、マ、ガ、レサー、ガ、マ、パ、

nee, nee, nee, saa, saa, saa, ga, re, saa ||

ニー、ニー、ニー、サー、サー、サー、ガ、レ、サー

キヤール演奏の1つの形式であるチャトゥラングについて。

4つの異なるソングテキストを用いて演奏される。その4つ要素とは、意味のある言葉、意味を持たない言葉、サルガム、パーカッションで使われるボル、この4つである。4つの要素が、独立したそれぞれのセクションをもち、それぞれの中で展開がされてゆくというスタイルだ。非常に演奏が難しく、ソングテキストにもっとも重きがおかれているのがチャトゥラングの特徴だ。

ガート:チャトゥラング(チョターキヤール)

ラーグ:ヘマーヴァティ

タール:ドゥルットティーンタール

 

歌詞

スターイ/意味のない言葉

 

derenaa tadim tadim tana derenaa

デレナー タディン タディン タナ デレナー

tuna derenaa tana derenaa tadre daani ||1||

トゥナ デレナー タナ デレナー タドゥレ ダーニ

 

アンタラー(1) / 意味のある言葉

 

kaama krodha mada maana na mohaa

カーマ クロダー マダ マーナ ナ モハー

lobha na chobha na raaga na drohaa

ロバー ナ チョバー ナ ラーガ ナ ドゥロハー

jinake kapata dambha nahein maayaa

ジナケ カパタ ダンバー ナヒーン マーヤー

tinake hrudaya basata raghuraayaa ||2||

ティナケ フルダヤ バサタ ラグラーヤー

 

アンタラー(2) / サルガム

 

diranaa diranaa diranaa

ディラナー ディラナー ディラナー

dha ga re saa, dha nee dha, ma pa ma, re ga re saa,

ダ ガ レ サー、ダ ニー ダ、マ パ マ レ ガ レ サー、

re saa ga re saa nee, ma ga re saa, nee nee dha pa ma ga,

レ サー ガ レ サー ニー、マ ガ レ サー、 ニー ニー、ダ パ マ ガ、

ma pa dha nee saa ga re saa, nee dha pa ma ga re saa,

マ パ ダ ニー サー ガ レ サー、ニー ダ パ マ ガ レ サー、

re ga ma pa dha nee, re ga ma pa dha, re ga ma pa,

レ ガ マ パ ダ ニー、レ ガ マ パ  ダ、レ ガ マ パ 

saa re ga ma pa dha nee saa, nee dha pa ma ga re saa ||3||

サー レ ガ マ パ  ダ ニー サー、ニー ダ パ マ ガ レ サー

 

アンタラー(3) / タール ボル

 

taka dimee dimee taka taka dimiee taam

タカ ディミー ディミー タカ タカ ディミー ターム

taka dimee taam taka dimee taam 

タカ ディミー ターム タカ ディミー ターム

taka dimee taam 

タカ ディミー ターム

taka dimee taam taka dimee taam

タカ ディミー ターム タカ ディミー ターム

taka dimee taam taka dimee taam

タカ ディミー ターム  タカ ディミー ターム

dime taam taka dimee taam 

ディミ ターム タカ ディミー ターム

dime taam taka dimee taam 

ディミー ターム タカ ディミー ターム

dime taam dimee taam dimee taam ||4||

ディミー ターム ターム ディミー ターム

 

アンタラー⑴の日本語:情熱、怒り、プライド、執着、貪欲さ、不安、悪意、背信、邪悪さ

プライドと欺瞞から解放された人々の心の中にだけ、ラグラーヤーが宿るのです。

*ラグラーヤーとは、ラーム、ヴィシュヌ神の化身の別名

 

 

 

 

 

 

トライヴァット

キヤール演奏の一つの形式であるトライヴァットについて。

パーカッションのボルフレーズのみ、ソングテキストとして採用されるタイプのものと、意味のない音節の言葉、サルガム、パーカッションのボルフレーズの3種類を採用するタイプとがある。タラーナー、チャトゥラング、トライヴァットは、ソングテキストに用いられるマテリアルの違いによって分けられ、キヤールのフォームで演奏される。

 

 

ガート:トライヴァット(チョターキヤール)

ラーグ:カリヤーン

タール:ティーンタール

歌詞

スターイ

 

 

dhaa dhaa dhin taa dhaa dhin naa dhin dhin naa tin tin naa

ダー ダー ディン ター ダー ディン ナー ディン ディン ナー ティン ティン ナー

dhaa tira kita t naa kat tin gida naga k daan dhaa dhaa dhaa ||

ダー ティラキタ トゥ ナー カッ ティン ギダ ナガ カッ ダーン ダー ダー ダー

アンタラー

 

dhaa dhaa dhin dhin dhaa dhin dhaa dhaa dhin taa taa tin

ダー ダー ディン ディン ダー ディン ダー ダー ディン ター ター ティン

ga di ga na taka dhaa tira kita dhin dhaa tira kita dhin dhaa tita kita dhin ||

ガ ディ ガ ナ タカ ダー ティラ キタ ディン ダー ティラ キタ ディン ダー ダーティタ キタ ディ

 

 

 

 

 

タッパ

チョター・キヤール演奏の1つの形式であるタッパについて。

このガートは、言葉と音節で編まれた、特徴的なターン(ボル・ターン)パターンを多用することにより展開されてゆく。使われる言葉は、その意味性よりも、調整構造に重きを置いた形で使われる。

 

ガート:タッパ

ラーグ:カーフィ

タール:アッダー/ ジャタタール

 

歌詞

スターイ

 

jiyaa more laage naa tumhare binaa piyaa

ジヤー モレ ラーゲ ナー トゥムハレ ビナー ピヤー

tarapata hoon sainyaa dina rainaa ||

タラパタ フーン セインヤー ディナ レイナー

アンタラー

tuma sanga preeta lagaake pachataayi 

トゥマ サンガ プリータ ラガーケ パチャターイ

bedardee harajawyee ||

べダルディー ハラジャワイー

 

日本語:スターイ:わたしの心はあなたがいなくて落ち着かない 愛する人よ 

昼も夜も恋い焦がれているの 愛する人よ

アンタラー:あなたに恋をしてどれほど悔やんでいるか 冷たくて不誠実なあなた!

 

 

 

 

タッパでは、ゆっくりとしたフレーズ、長く続く音などが避けられるため、ラーグの詳細な表現を求められない。ここで即興で行われるターンは、ムクラーに返るまでに、どの音でも途絶えたり、ブレイクが入ることもなく、フレーズをどんどん膨らませてゆく。

タッパは、インド古典、ライトクラシカル、どちらのガートにも親和性をもつ。ラーグの表現が第一の目的ではないこのガートでは、1つのラーグのルールを遵守するよりも、他のラーグの音使いを拝借したり、取り込んだりしながら展開されることも多い。また、言葉の感情的な内容そのものも重要ではなく、言葉そのものは、1つの音楽素材として取り扱われる。

歌詞はパンジャービ語で書かれていることがもっとも多く、普通、16拍のパンジャービ・タールで演奏される。軽めのラーグで演奏されることが多く、入念に展開していくような形式ではないので、演奏時間はだいたい10分程度となる。

 

 

all audio guidance by Chetna Banawat

                                
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。

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