器楽
インド音楽とは旋律音楽であるため、声楽が器楽の基礎となっている。楽器奏者は、だいたい、声でおこなっている表現を細部まで模倣し、同様の表現を楽器で作り出そうとする。そのため、器楽においても、既成曲、アーラープ、ターンといった、声楽と同一の素材を使用するが、ボル・フレーズやサルガムといった、言葉を使用する素材は必然的に、採用されない。
器楽は、シタールのようなメロディ楽器の特性を活かした、ジョール、ジャーラーといった別の言語的表現を生み出した。
この言語的表現法を使えば、よりリズミカルな表現が可能になる。
ジョール演奏時、弦を押さえる方の手でフレーズを作りながら、弦を弾く方の手では、1パルスに2拍、ワン、ツー、ワン、ツーと弾き、リズムとマッチさせてゆく。ジャーラーでは、そのリズムが4拍になり、テンポは次第に上がってゆく。
声楽にこのジョール、ジャーラーを取り入れると、また異なる色彩がくわわり、立体的なフレーズが付加される。
言葉を使うすべての音楽では、音楽そのものの構造は、基本的に言語から独立している。そのため、楽器で同じ楽曲を演奏すると、人々は喜んで聞くことができる。人々が、楽器で演奏される曲が歌詞のある既成曲であると関連づけることができたとき、その器楽を一層楽しむことができるだろう。これは、楽器奏者と、その聴衆との間の、親密性を確立する上でも重要な要素となる。
いろいろな楽器
器楽で言葉は使用しないが、形式の分類法は、声楽と同様である。
器楽において、ラーグは、アーラープ、ジョール、ジャーラー、ガットで表現される。ライトクラシカルのガートは、器楽ではドゥーンとよばれ、声楽で使われるソングテキストと似ている。人間の声と同様、それぞれに楽器にはそれぞれの言語、声質が存在する。
インド楽器は、以下の4つのカテゴリーに分類することができる。
1. 弦楽器(タタ) 弦楽器
a. 撥弦楽器 シタール、サロード、ビーン、ヴィーナー、ギター
b. 擦弦楽器 ヴァイオリン、サーランギー
c. 打弦楽器 サントゥール
2. 吹奏楽器(スシラ) 気鳴楽器
バーンスリー(フルート)、シャハナーイ、ナーガスワラム
3. 打楽器(アヴァナッダ) 膜鳴楽器
タブラー、パカーワジ、ムルダンガム
4. ソリッド楽器(ガーナ) 体鳴楽器
ガタム
旋律楽器:ソロプレゼンテーション
1. アーラープ ゆっくり、リズムのないフレーズ
2. ジョール 中くらいのテンポで、1パルスに2拍
3. ジャーラー 速いテンポで、1パルスに4拍
4. ヴィランビット・ガット ゆっくりの半既成曲(声楽のバラー・キヤールと類似)
5. ドルット・ガット 速いテンポの半既成曲(声楽のチョター・キヤールと類似)
シタール:独奏部分
シタールの演奏言語:弦を弾く時のストロークの上下、いずれかを指す。
例:ダー ディル ディル ディル ダー ーダダー ーダ ダー
アーラープ リズムなしのノムトム*アーラープ
ジョール 1パルスに2拍のノムトム
トーダー 小さいフレーズ、異なるテンポによるティハイ(訳注:1つのフレーズ、または
いくつかのフレーズの塊を三回繰り返し、タールのサムに戻るテクニック)、ターン。
ジャーラー ラ ダ ダ ダ(リバース)1パルス4拍の中でリズムを作る
ダ ラ ラ ラ(ヴァリエーション)タブラーの伴奏と共に
ダ ラ ラ / ダ ラ / ダ ラ ラ 3/2/3
ダ ラ ラ ラ ラ / ダ ラ ラ 5/3
ガット マシットカーニ(ヴィランビット)ガット/ヴォーカルスタイル
ラザーカーニ(ドゥルット)ガット/ タールが基調になるスタイル
訳注*ノムトム:ドゥルパドのアーラープの中で使われる、ノーム、トームと言った音節をいいながらゆったりと、音と音をグラインドしてつなげる表現。器楽でのアーラープでもこのような表現を用いることから、便宜的に、ノムトムとした。
リズム楽器:独奏部分
両の手のひらと指で巧みに作り出された音色は、リズム楽器のための言語を作り出す。
パカーワジ テーカー
レラー
パラン
タブラー テーカー
ぺシュカール(ゆっくり)
カーイダー(中間)
レラー(速い)
ガット
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。