ステージアレンジメント-演奏者と聴衆-

ステージアレンジメント-演奏者と聴衆-

 

ヨーロッパのコンサートとは違い、インドの音楽家、とくに古典音楽奏者は、ステージの上に座って演奏をする。タブラー演奏者は歌手の右手、メロディ楽器奏者は左手、ターンプーラー奏者は、歌手の背後に座る。ステージ上での演奏者の表情やジェスチャーは自然体で、演奏者同士向かい合って座って演奏し、聴衆の方を向いていない。歌手は演奏に集中し、始終目を閉じていることも多い。

インド古典音楽の、伝統的な座位演奏は、演奏者と聴衆の距離感が近いため、多くのやりとりを相互間ですることが可能になる。インド音楽において、演奏者と聴衆の、親密な関係というのは非常に重要で、座して演奏することは、このような関係を双方に作り出すのに非常に役に立っている。

インド音楽のコンサートとは、単なるエンターテイメントの場ではなく、演奏家と聴衆の相互反応により、音楽が創造され、新しい命を吹き込むことのできるワークショップでもあるのだ。コンサート中、聴衆は間接的にでも、その演奏に積極的に関わっている。

彼らのオープンでわかりやすい、首や手を振ったりする、賞賛のジェスチャー、かけ声は、演奏者が最善の演奏を試みるためのインセンティブとしてはたらく。

このような、センシティブな演奏家と、耳の肥えた観客との間の演奏中の対話は、何世紀にもわたってインド音楽の発展に大きな影響を与えてきた。これは、インド音楽コンサートの大きな特徴であり、この相互作用の結果として、インド音楽は長い歴史の中、再構築し続けている。

しかし演奏家は、聴き手の興奮気味の姿勢とは別の、瞑想的次元での音楽表現を要求される。音楽を、花びらがゆっくりと開いていくように解きほどいていくには、忍耐と、集中力が必要とされる。

ラーグ・サマイ(時間概念)と、ラーグ・ラス(感情理論)のコンセプトは、ラーグに特定の感情的色彩を与え、それにより「抽象的」なラーグを「具象化」させる助けとなる。

こういったことを背景に、演奏者はラーグにキャラクターをあたえ、聴衆と、その経験を共有できると考えられてきた。パフォーミングアーツはその場でクリエイトしてゆくエンターテイメントであったとしても、それは、神々に対しての捧げ物なのだ。インド音楽のステージにしつらえられる、花やオイルランプは、そのための適切な雰囲気を作り出している。花を飾るのは、その美しさと純粋さを表し、オイルランプは、神性を表している。このような雰囲気の中で、演奏者と聴衆は、「未知」へと続く音楽の道を、ともに辿っていくのである。

 



                                    



◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。

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