声楽家のための伴奏楽器
1. ドローン楽器-ターンプーラー
旋律の線的進行により展開、発展していくインド音楽の特徴を、もっとも象徴的に表すユニークな楽器である。
インド古典音楽の演奏において、声楽、器楽選ばず、演奏者は、それぞれの音の位置を確認するために、演奏中、つねに自身の基音(訳注:自分の声質、楽器の特質に基づき設定した音の位置、サー、レ、ガ、マ、パ、ダ、ニ、の最初の音、サーの音。原音)を確認しながら演奏を進めなくてはならない。
ターンプーラーは、通常、4本の弦が張られている。下部は大きな丸いヒョウタンに、4フィートほどの中空の棹がつき、その上部のくり抜かれた小さい穴の中に、4本のペグが差し込まれている(棹の両脇に1本ずつ、表面部に2本が通常。)。弦はそれぞれ、このペグに結ばれ、ヒョウタンの下部に配置されたブリッジの上を通って、ひょうたんの底部にくくりつけられ、ブリッジと弦の接触部分に糸(ジャワーリー*)を挟み込み、弦をつま弾いたときに、独特の共鳴音を作り出す。
ペグで弦を引っ張ってチューニングをした後の細かな調整は、ブリッジの下に弦それぞれに付けられた、小さなビーズを前後させておこなう。通常4本の弦は、演奏されるラーガで扱われる音により、「パ、サー、サー、サー、」もしくは「マ、サー、サー、サー」と調弦される。「パ」、と「マ」、真ん中2本の「サー」は、マッディヤ・サプタック(中間のオクターヴ)、4本目の「サー」は、タール・サプタック(上のオクターヴ)で調弦される。
基音の「サー」は、歌い手の声の音域、楽器それぞれに適した場所に設定される。
弦を強く引っ張ってしまうと出てしまう、ビーン!という金属的な音を出すことなく、優しく、よどみなく弦を弾くことができれば、演奏者の演奏をサポートする、美しい永続的ドローン音を作り出せるのだ。このターンプーラーの永続的な音が、演奏の始まりから終わりまで、同じ調子で奏でられ続ける。
すべてのインド古典音楽は、このドローン音を背景に認識され、提示されてゆく。声楽の伴奏の場合、たいてい2本のターンプーラーによって伴奏される。
*訳注:共鳴音効果を出す、楽器に使用される糸のことをジャワーリーと呼ぶ。ブリッジ部分をそう呼ぶこともある、また、その共鳴音そのものをジャワーリーとも言う
2. リズム楽器-タブラー
2つセットで演奏されるこの太鼓の上部には、ヤギの皮が張られている。通常、右手で演奏される小さい方の太鼓は、タブラーと呼ばれ、左側の大きい太鼓はバーヤーンと呼ばれる。タブラーの胴体部分は木製、バーヤーンの方は金属製。その上に革のストラップが張られているが、これは上部の皮を所定位置に保持し、皮の張力を変化させるためにも使われる。皮のドラムヘッドには、直径約3インチほどの黒いペーストを練ったものを貼り付けて、タブラー独特の音程の変化が可能になっている。タブラーは、旋律奏者の基音の「サー」にチューニングされ、演奏される。ドゥルパド・ダマールでは、パカーワジという両面太鼓が使われるが、それ以外の北インド古典音楽、ライトクラシカル音楽では、おもにタブラーが使われる。
3. メロディ楽器-ハルモニウム、サーランギー
インド古典声楽にはほかに、メロディ楽器も伴奏楽器として用いられる。ハルモニウムという鍵盤楽器が最近では定番で、以前はサーランギーという擦弦楽器が好まれていた。
演奏中、歌手が歌っていない、フレーズとフレーズの間などに、伴奏楽器はメロディの美しさをより高めるべく、そのギャップを埋める。また多くの場合、ターンプーラー奏者は歌手の古い弟子によって演奏されることが多いため、ヴォーカルサポートの役割も担うことになる。
◆このページの内容は全て、Dr.Prabha Atre著 「Enlightening the Listener」からの翻訳です。